第五幕 罠
店の外に出ると夜風が冷たく、二人の間を吹き抜けた。
君の言うことが理解出来ずにいる僕を見ながら、君はただ静かに微笑んでいた。
「解らない?」
「何のこと?」
「私はこの世に存在しない―。そして、あなたも。」
「君と僕が存在しない…?」
訳が解らず、ただ言われたことを繰り返す僕に、君は手を差し出して言った。
「私たちの世界に、帰りましょう…?」
「何を…、言ってるの?」「解らない?―私たちは人じゃない。」
「人じゃない…。そんなこと急に言われても―。」
「だから、確かめに行きましょ?私たちの世界へ―。」
何故だろう?
『在り得ない。』
そう思いながらも、君の手を取ってしまったのは。
この世に疲れてしまったからなのか、それとも…。
君と僕だけの世界に、甘美な誘惑を感じたからなのか――。
そっと、戸惑いながらも君の手に僕の手を重ねた。
手が触れた瞬間、僕の中で、何かが満たされていくのを感じた。
それは、初めて逢った時には感じなかった、穏やかな気持ちで…。
僕はすべてが解った様な、そんな気持ちになっていた。