第四幕 霧

最近の若い子は、随分と軽いと言う。
君が何歳かは、知らないけれども、少なくとも僕よりは下だろう。
色々考えてる内に、だんだんと人が集まってきた。
時計を見てその理由がわかった。
もう、夕方近い。
このお店は夕方限定で手作りパンの販売をしているのだ。
特にハーブを使ったパンが人気で、僕もよく買っていた。
思い出したように、
「おなか空いた…。」
と言う君に、僕は
「パン食べる?ハーブのが一番おいしいんだけど…。」
もしかして、『ハーブ嫌いなんじゃ?』と思って
「だめ…?」と聞いた僕に、君は
「好きよ?」
と答えた。
少しの間、沈黙が流れた。
僕には「君」がよく解らなかった。
君は何処か儚げで、掴み所がない。
僕達は何気ない会話をしながら、食事を終えた。
「お腹いっぱい。」
「僕も。…この後どこか行きたい所、ある?」
「―二人の世界に、いきたい。」
「それは…。」
君の言葉の意味が、いまいち呑み込めず、僕は言葉を探した。
「連れて行ってあげる―。」
ふと君が小さな笑い声を漏らし、囁いた。
当惑している僕の手を引いて、君が歩き出す。
レジを素通りしようとする君に
「お会計!」
「平気、誰にも見えてないから。」
「見えてない…?」
呆然とする僕を、なおも引っ張りながら君は歩いていく。



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