第三幕 運命(さだめ)

雨も上がり、日も西に傾きかけた頃。
ふと、まだお昼を食べていない事に気が付いた。
「お腹空いたね。何か食べに行こうか?」
そう聞くと、君は
「そうですね。」
と、意味深に笑うだけだった。
とりあえず、何が食べたいか解らなかったから、色々回って見る事にした。
「一応、僕のお勧めはこのお店かな。因みにパスタが一番おいしいよ。」
馴染みの店の前でそう言った僕に、君は
「どこでも良いの。あなたさえ居れば…。」
と寂しげに呟いた…。
僕は君を護って上げたいと思った。
店の前だということも忘れて。
そっと君の腕を引き、抱きしめる。
僕より頭一つ分、小さいせいだろう。
君は僕の胸にすっぽりと収まった。
僕に包まれながら、君はゆっくりと目を閉じた。
そっと頭を寄せてくる君に、僕は安堵した。
そして同時に不安にもなったのだ。
今日駅にいた君は、もしかして誰かを待っていたんじゃないか―。
そしてそれは、君の大切な人だったんじゃないか―。
君は僕の変化を感じ取ったのだろう。
どこか縋るような目をした君は、とても幼く見えた。
君にとって僕はどれ程の存在なのだろうか?
見ず知らずの人…。
それとも少しは、好意を抱いてくれているのか…。
僕に抱かれ、頭を預ける位だ。
恐らく、嫌ってはいない筈。
それでも、やっぱり気になるのは君の儚げな表情。
好きな人がいれば、頭を預けたりしない。
そう思いはするものの、君の切なげな、はかない顔が頭を離れない。
もっと言えば、好かれている自信もない。



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