第零幕 時の悪戯
あなたを探してどれだけの時を彷徨っただろう。
もう、体が保たなくなってきている。
それでも、一目あなたに逢いたい。
あなたが、私の腕の中で眠るように逝ったあの日。
私の時は止まってしまった。
許されないと解っていながら、私はあなたを求め続けた。
老いていくあなたを、私がどんな思いで見ていたか。あなたは知らないでしょう?
いっそあなたの手で、私の胸に杭を討って貰えたら…。
そんな愚かなことも考えた。
そんな事させたら、あなたが壊れてしまう。
そうして、あなたは眠りについた。
孤独の檻の中で、私はあなただけを願った。
カラカラに渇いていく喉の餓え。
それ以上にあなたに餓えていた。
柩の中で、あなたを抱いて眠りながら私は待った。
あなたが孵る日を。
そして薔薇の時が刻まれ始めた。
どれだけこの時を待っただろう。
あなたに逢いに行けない、あの時間(トキ)の痛み―。それは身の内を焼かれる様だった…。
そして、ついにあなたに出逢った。
あなたは昔と変わらぬ姿で私に手を差し出した。
けれど、私は知っていた。あなたが私との時間を忘れてしまっていることを。
だから、何も言わずにいようと、心に誓ったの。
けれど、そんな誓いが何になろう?
渇ききった私の躯が、あなたを求めている。
欲している。
抱き締められた時、すべてを壊す覚悟を決めた。
たとえ、あなたを壊そうとも。
追い詰めることになろうとも。
この愛だけは手放せないと、思い知ったのだから。
何気ない会話の中で、嘗てのあなたを見た。
そっと手を差し出しあなたを誘う。
あなたが手を取るか、少し不安だった。
でもあなたは手を取った。だから帰さないことを誓ったの。
あなたが、どんなに泣き叫んでも。
逃がしはしない――。
私たちの世界。
暗い闇のような世界で、あなただけが私を照らす太陽だった。
そしてあなたにとって私は美しい薔薇だった。
手折ることは許されない。けれども、どんな禁忌を犯しても欲しいと思ってしまった。
だから、あなたは糧になると申し出たんでしょ?
けれど、私たちの愛は。
今のあなたには、受け入れ難かったのかも知れない。愛ゆえに時を止めた私。
愛ゆえに自らを差し出したあなた。
そして私たちは恋に堕ちて行った。
現世もまた、絶えぬ流れのように恋に堕ちた私たち。これを禁忌というのなら、
魂(ココロ)などいらない―――。
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